『WEB版リテラシーズ』3

『WEB版リテラシーズ』3(2) [2006年12月刊]

論文

多言語使用と感情という視点からみる,ある「誤用」――定住外国人のエスノグラフィーから
八木真奈美(大阪大学)
キーワード: 多言語使用,感情,誤用,家族,定住外国人
概要: 日本語ではいとこを妹と言えば,それは誤用である。しかし本稿の調査協力者であるさくらさんは,自分のいとこを妹と呼ぶ。はたして本当にさくらさんはことばの選択を間違えているのだろうか。本稿は,従来の日本語教育では誤用として訂正されるこの「妹」ということばを「多言語使用と感情」という新しい視点で捉え直し,このことばの背景にある調査協力者さくらさんの意味世界と「妹」ということばの関係を解き明かそうと試みた。
Entry: 八木真奈美(2006).多言語使用と感情という視点からみる,ある「誤用」―定住外国人のエスノグラフィーから『WEB版リテラシーズ』3(2),1-9. http://literacies.9640.jp/vol03.html
An "error" from the perspective of multilingualism and emotions: Ethnography of a foreign resident / YAGI, Manami.
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日本語教育における「クリティカル・リテラシー」の序論――批判性・創造性の実現にむけたメディア・リテラシー論の可能性と限界
アレクサンダー・アンドラハーノフ(早稲田大学大学院日本語教育研究科)
キーワード: 知識から能力,言語の恣意性,メディア,クリティカル・リテラシー,メディア・リテラシー
概要: 近年,日本語教育では,知識から能力へのパラダイム転換が行われている。この転換の目的は,日本語教育の最終的な目標である学習者の言語活動による文化・社会の形成という行為を多様性にむけて解放することであるが,そのためには言語を「物そのもの」と同一視するのでなく,メディアとして用いなければならない。
本論ではこの点に着目し,言語をメディア情報として運用する能力を「クリティカル・リテラシー」として提示する。メディア・リテラシー論の考え方にしたがえば,このクリティカル・リテラシーに必要な能力とは,批判性と創造性である。これらの能力を育成するためには,日本語教育の場でメディア・リテラシー活動を実施することが有効であると考えられるが,その場合はいわゆるマスメディアだけでなく,言語そのものもメディアであるという観点の強調が不可欠である。
Entry: アレクサンダー,A.(2006).日本語教育における「クリティカル・リテラシー」の序論――批判性・創造性の実現にむけたメディア・リテラシー論の可能性と限界『WEB版リテラシーズ』3(2),10-17. http://literacies.9640.jp/vol03.html
Introduction to theory of "Critical Literacy" in language education: Prospects and limitations of media literacy theory from the point of view of criticism and creativity. / ALEXANDER, Andrakhanov.
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留学生・日本人大学生相互学習型活動における共生の実現をめざして――相互行為に現れる非対称性と権力作用の観点から
杉原由美(お茶の水女子大学大学院人間文化研究科)
キーワード: 多文化共生,非対称性,権力作用,相互行為,会話分析
概要: 本稿は,留学生・日本人大学生の相互学習型活動において共生を実現する示唆を得るために,グループディスカッションの相互行為を対象として,母語話者と非母語話者としての非対称性と権力作用に注目しエスノメソドロジーの会話分析の視点から分析を行うものである。結果,その場に違和感なく浸透している非対称性があることと,その非対称性と具体的に現れた力の行使がつながっていることを示すことによって,誰もが行いそうなありふれた行為が権力作用につながっているという自覚と,そうした微細な権力行使へと巻き込まれることへの警戒感を喚起した。
Entry: 杉原由美(2006).留学生・日本人大学生相互学習型活動における共生の実現をめざして―相互行為に現れる非対称性と権力作用の観点から『WEB版リテラシーズ』3(2),18-27. http://literacies.9640.jp/vol03.html
A strive towards multiculturalism via class activties between foreign and Japanese university students. / SUGIHARA, Yumi.
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書評

共生社会」実現への対話を触発する――植田晃次・山下仁編著『「共生」の内実――批判的社会言語学からの問いかけ』
三代純平(早稲田大学日本語教育研究センター)
Entry: 三代純平(2006).「共生社会」実現への対話を触発する―植田晃次・山下仁編著『「共生」の内実―批判的社会言語学からの問いかけ』『WEB版リテラシーズ』3(2),28-32. http://literacies.9640.jp/vol03.html
To inspire us to discuss the realization of cooperative human relations. / MIYO, Junpei.
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『WEB版リテラシーズ』3(1) [2006年6月刊]

論文

日本語教室における「論争上にある問題」(controversial issues)の展開についての試論――「日中関係の悪化」を例として
有田佳代子(敬和学園大学人文学部)
キーワード: 論争上にある問題(controversial issues),言語教育と政治,問題発見解決学習,日中関係,歴史認識問題
概要: 人種差別,性差別,民族や宗教の対立,テロ活動,南北の不平等,環境破壊と開発など,学習者を取り巻く現実世界における様々な対立や確執の背景となる問題,したがってその多くが政治の俎上に上りやすい問題を,「論争上にある問題」(controversial issues)として位置づけ,その日本語教室での展開について考察する。新しい「国際関係」は,いま・ここにいる私たちひとりひとりが作り出していくものであるなら,日本語教育における問題発見解決学習の考え方は,その場を作り出すためのひとつの可能性であり,その実践事例として「日中関係の悪化」をテーマとした学習者の作業の軌跡を報告する。
Entry: 有田佳代子(2006).日本語教室における「論争上にある問題」(controversial issues)の展開についての試論―「日中関係の悪化」を例として『WEB版リテラシーズ』3(1),1-10. http://literacies.9640.jp/vol03.html
Facilitating discussion of controversial issues in Japanese language classes: "Deterioration in Japan-China relations" as an example. / ARITA, Kayoko.
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国際化」の中の「逸脱した日本語」について
須田風志(大阪大学言語文化研究科)
キーワード: 包摂,排除,同一性,逸脱,同化主義
概要: 1980年代中盤以降,「日本語の国際化」という認識が広く共有されつつある。この「日本語の国際化」という議論においては多くの場合,いわゆる「逸脱した日本語」にいかに対処していくかという問題が取りあげられている。本稿においてはこの「逸脱した日本語」が,「日本語の国際化」という文脈の中で,どのようにして表象されてきたのかを分析していく。その分析を通じて,これらの表象には同化主義が織り込まれていることを明らかにする。
Entry: 須田風志(2006).「国際化」の中の「逸脱した日本語」について『WEB版リテラシーズ』3(1),11-20. http://literacies.9640.jp/vol03.html
The languages deviating from Japanese' in the context of 'internationalization'. / SUDA, Kazashi.
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多文化共生指向の日本語教育実習生による反対意見表明の変化――ティーチャー・コミュニティー構築の過程から
平野美恵子(お茶の水女子大学国際教育センター)
キーワード: 協働型日本語教育実習,多様な言語文化背景,反対意見表明,第三の新たな規範,対話
概要: 本稿では,多文化共生指向の協働型日本語教育実習を取り上げ,日本語母語話者・非母語話者実習生間の話し合いを反対意見表明に焦点を当てて分析した。その結果,当初母語話者は暗示的に,非母語話者は明示的に反対意見を述べる傾向にあったが,次第に両者の反対意見の行動様式が近づき,さらには,反対意見を契機に互いに折り合いをつけて協働的な意思決定を行っていたことが分かった。
Entry: 平野美恵子(2006).多文化共生指向の日本語教育実習生による反対意見表明の変化―ティーチャー・コミュニティー構築の過程から『WEB版リテラシーズ』3(1),21-31. http://literacies.9640.jp/vol03.html
Disagreement among native/non-native Japanese teachers oriented to multicultural coexistence: The trajectory of their teacher community development. / HIRANO, Mieko.
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理論と実践における「異文化間言語学習」の問題――オーストラリアにおける年少者日本語教育の事例から
太田裕子(早稲田大学大学院日本語教育研究科)
キーワード: 異文化間言語学習,第三の場,年少者日本語教育,言語教育政策,オーストラリア
概要: 本稿はオーストラリアの言語教育政策に採用され実施が始まっている異文化間言語学習について,クィーンズランド州の小学校での日本語教育実践をケーススタディに,理論と実践に共通する問題点を論じた。その問題は,個人対個人のインターアクションが重視されない点,文化を国や言語集団で類型化し,観察の「対象」として捉えている点である。この問題を乗り越えるために,相互理解,関係性構築を行う力が異文化対応能力であるという視点から,異文化対応能力育成を目指す言語教育に対し,三つの観点を提案した。
Entry: 太田裕子(2006).理論と実践における「異文化間言語学習」の問題―オーストラリアにおける年少者日本語教育の事例から『WEB版リテラシーズ』3(1),32-40. http://literacies.9640.jp/vol03.html
The problems of the theory and practices of "Intercultural Language Learning": A case study of Japanese language education for children in Australia. / OTA, Yuko.
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教育研究ノート

複数言語主義・使用・状況」の可能性――欧州評議会の動向とヨーロピアン・スクールの試み
山川智子(東京大学大学院総合文化研究科)
キーワード: 「複数言語主義・使用・状況」,欧州評議会,言語意識教育,ヨーロピアン・スクール
概要: 欧州評議会の言語教育に関する取り組みは,地理的・歴史的にも遠く離れてはいるものの,日本の言語教育でも,特に目標設定や言語意識教育の側面において参考になる部分が多いと考える。そこで本稿では,欧州評議会の提唱する「複数言語主義・使用・状況」という考え方とその可能性について述べ,ヨーロピアン・スクールにおける言語意識教育の試みを紹介し,日本への適用可能性を考えるにあたっての議論の題材を提供したい。
Entry: 山川智子(2006).「複数言語主義・使用・状況」の可能性―欧州評議会の動向とヨーロピアン・スクールの試み『WEB版リテラシーズ』3(1),41-46. http://literacies.9640.jp/vol03.html
The potential of "Plurilingualism": Challenges in the Council of Europe and European school practices. / YAMAKAWA, Tomoko.
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