『リテラシーズ』10 [2012年2月刊]

論文

日本語教育実践において「主体的」が意味してきたこと
牛窪隆太(早稲田大学大学院日本語教育研究科)
キーワード:「主体(的・性)」,主体性の多義性,意味内容,教室における言語行為
概要: 本稿は,学会誌『日本語教育』に掲載された論考を対象に「主体(的・性)」の意味内容について分析した結果から,日本語教育実践における「主体(的・性)」の課題について検討したものである。分析の結果,日本語教育実践で主張されてきた学習者の「主体(的・性)」の実態は,教室への参加や学習における学習者の態度や姿勢を示すものであり,言語行為における主体性としては,ほとんど問題にされていないことが明らかになった。記述にみられた学習者の主体性の多くは,教師の管理からの消極的脱却を前提としているものであった。その消極的脱却と,教師の教授行為の積極的な捉えなおしの両方が,同じ「学習者の主体性」を生みだすものとして位置づけられている。このことから,日本語教育実践において,教室で志向される言語行為を問題にしていく必要性を述べた。
Entry: 牛窪隆太(2012).日本語教育実践において「主体的」が意味してきたこと『リテラシーズ』10,1-10. http://literacies.9640.jp/vol10.html [bibTeX
PDF この論文をダウンロードする
What does “autonomy” mean in the Japanese language teaching practice?
USHIKUBO, Ryuta (Graduate school of Japanese applied linguistics, Waseda University)
PDF English [Abstract]
敬語の使用状況を記述的に理解する実践――ビジネス場面のコミュニケーション学習における企業ドラマの発話分析
芝原里佳 (マレーシア科学大学言語リテラシー翻訳学部)
キーワード:批判的アプローチ,記述的理解,敬語,発話分析,企業ドラマ
概要: 文化や言語の規範的理解が孕む本質主義への批判から,言語の実態を記述的に理解する試みとして,学習者らがテレビドラマの敬語使用を分析する実践を行った。本稿では,学習者による分析結果や実践後のアンケート結果をもとに,この実践の有効性を議論する。学習者は自身で分析することにより敬語の使用状況が教科書に書かれている規範より複雑であることを発見できたが,その結果一層明確で使用可能な規範を求めるようになることがわかった。この問題への対応として今後どのようにプロジェクトを展開すべきかを議論する。
Entry: 芝原里佳(2012).敬語の使用状況を記述的に理解する実践―ビジネス場面のコミュニケーション学習における企業ドラマの発話分析『リテラシーズ』10,11-20. http://literacies.9640.jp/vol10.html [bibTeX
PDF この論文をダウンロードする
Descriptive Understanding of Keigo Usage: Learners’ Analysis of Speech in a Japanese TV Office Drama in Relation to Japanese Business Communication
SHIBAHARA, Rika (School of Languages, Literacies & Translation.
Universiti Sains Malaysia)
PDF English (Abstract)
中国の大学専攻日本語教科書と日本の高等学校国語教科書との内容的近似性から浮かび上がる現代的課題
田中祐輔(早稲田大学大学院日本語教育研究科,日本学術振興会特別研究員)
キーワード:中国大学専攻日本語教育,日本語教科書,国語教科書,内容的近似性,精読
概要: 本稿は,中国の大学専攻日本語教育において70 年代末から80 年代にかけて議論された「国語教育を巡る課題」の現状と現代的課題について,教科書の比較調査から考察するものである。結果,(1)現行日本語教科書の掲載作品・作家は,国語教科書と重複することが多く,80年代当時指摘された問題が実質的には引き継がれているということ,(2)その要因は「正しい日本語・日本文化・日本人の心」の習得と理解という目標が,教学大綱・教師・学習者・教科書作成者・研究者間に広く共有され,教科書制作では,国語教科書を参照するのが適切かつ効率的だと考えられているからであることの2 点が明らかとなった。以上から,現在の大学専攻日本語教育には,国語教育との切り離すことのできない関係性が存在し,両者の複雑な異同の実態を把握した上で,今後,日本語教育は何を目指し,どのような学びを構築・展開してゆくのかについて再考すべき段階にあることを指摘する。
Entry: 田中祐輔(2012).中国の大学専攻日本語教科書と日本の高等学校国語教科書との内容的近似性から浮かび上がる現代的課題『リテラシーズ』10,21-30. http://literacies.9640.jp/vol10.html [bibTeX
PDF この論文をダウンロードする
Contemporary problems arising from the similarity in content between Japanese language textbooks used in Japanese language sections at Chinese universities and high school Kokugo textbooks used in Japan.
TANAKA, Yusuke (Waseda University Graduate School of Japanese Applied Linguistics. Research Fellow of Japan Society for the Promotion of Science)
PDF English (Abstract)
第二言語話者におけるジャンルの獲得――他者が語ること,他者と語ることを通して
大平幸(韓国・大田大學校)
キーワード:ジャンル,バフチン,活動領域,移動,越境のための日本語
概要: 本研究は,日本に住む学習者のある特定の活動領域における実践への参加がどのようにして可能になっていくのか,またかれらが参加可能な領域をどのようにして広げていくのかをジャンルの獲得という観点から明らかにすることを目的とする。本稿では,特にそのようにして自らの生活の場を広げつつある協力者の特定の活動領域における実践への参加に注目し,その協力者の参加を可能にしているものについて明らかにする。
Entry: 大平幸(2012).第二言語話者におけるジャンルの獲得―他者が語ること,他者と語ることを通して『リテラシーズ』10,31-39. http://literacies.9640.jp/vol10.html [bibTeX
PDF この論文をダウンロードする
Genre acquisition for second language learners of Japanese: Speaking with others and being spoken to.
OHIRA, Saki (Deajeon University)
PDF English (Abstract)

書評

「複言語,複文化主義」と「日本」は結べるのか――細川英雄,西山教行(編)『複言語・複文化主義とは何か――ヨーロッパの理念・状況から日本における受容・文脈化へ』
トムソン木下千尋(オーストラリア・ニューサウスウェールズ大学国際学科)
Entry: トムソン木下千尋(2012).「複言語,複文化主義」と「日本」は結べるのか―細川英雄,西山教行(編)『複言語・複文化主義とは何か―ヨーロッパの理念・状況から日本における受容・文脈化へ』(書評)『リテラシーズ』10,40-44. http://literacies.9640.jp/vol10.html [bibTeX
PDF この書評をダウンロードする
Can ‘plurilingualism and pluriculturalism’make the connection with ‘Japan’?
[Book Review] Hosokawa, H. & Nishiyama, N. (Eds.). (2010). Fukugengo, fukubunka-syugi towa nani ka: Yooroppa no rinen, joukyou kara nihon ni okeru zyuyou, bunmyaku-ka e [Understanding plurilingualism and pluriculturalism: From European concepts and conditions to their acceptance and contextualisation in Japan]. Kurosio Publishers.
KINOSHITA THOMSON, Chihiro (School of International Studies,
University of New South Wales, Australia.)
PDF English (Title)

▲ 先頭へ